数理News 2000-1

東京大学大学院数理科学研究科      12月1日発行

編集: 広報委員会

数理ニュースへの投稿先: surinews@kyokan.ms.u-tokyo.ac.jp

数理ニュースホームページ: http://kyokan.ms.u-tokyo.ac.jp/~surinews


目次


   

巻頭言

   
副研究科長 野口 潤次郎

 今年の夏は暑い期間が永かったですが,中秋の頃から急に気温が下がりました.そのせいでしょうか,今年は紅葉がたいへんきれいです.駒場のキャンパスにも,楓,漆や大きな欅が多くあり,とりわけ夕日が斜めに射すと赤や黄色がきれに映え,しばし立ち止まって見とれるほどでした.
 さて通常,数理ニュース1号,2号の巻頭言は研究科長,副研究科長と順に書くのですが,種々の都合により今回は交代することになりました.副研究科長の任期も2/3が過ぎました.今年度途中から数理科学研究科から研究科長以外にもう一人評議委員を出すことになり薩摩教授が選挙で選ばれました.それに伴う来年度からの役割分担の見直しで,小生が最後の副研究科長になりそうな雲行きです.
 最近の世の状況は,大学も含め,鬱陶しいものばかりが目に付きます.これは,大東亜戦争敗戦後の体制がもう限界にきたということの一つの社会的現象であるとよく言われていますが,むしろ不自然な体制がよくぞ半世紀以上も保ったものだとも言えます.あまりに永く続きすぎたために,その次の方向性が見えてこないところに多分不安感の本質的なとところがあるのかと憶測します.しかし社会の中でむしろ大学が,この変化をネガティブにばかりとらず,ポジティブなものへ変える姿勢をとりたいものと思います.この1年は,そのような動きが部分的にあったことは良かったと思います.いわば,守るばかりの姿勢でなく,打って出る姿勢でしょうか.まあ,無条件降伏体制からの脱却と考えれば少しは元気が出てくると思いますがいかがでしょうか.
そういえば,副研究科長を仰せつかり初めての外部会議であった4月の大学院協議会に出席したときに,新研究科の新領域創成科学研究科の博士課程入学事項に関連して,蓮見総長から「東大では,従来から一貫して軍事研究は行わない原則となっているがいかがか」との趣旨の問いがあり,当該研究科のある教授(科長だったかどうかもう忘れましたが)が代表で「軍事研究はいたしません」と約束する場面があったことには,正直びっくりしました.東大は,独立法人化問題に際しても,財政は国が負担せよと主張しています.これでは,「金は国が出してくれ,しかしその国とその利益を守る根幹技術の研究はいやだ」と言っているわけで,社会常識としておかしく,我が儘としか言えないものでしょう.このような「曲がったこと」はもう直っすぐにすべき時に来たと個人的には思いますが,皆さんはどうお考えでしょうか.
 我々にとって身近なところでも良い方へ変化したものがあります.それは,一般的な科学研究費が海外渡航に使えるようになり,自分たちで外国へ出かけるのも,海外から研究者を招聘することも代表者の判断で出来るようになったことです.これからの事務職員の減員を考えると,予算を使う際の証拠書類はもちろん重要なのですが,必要にして十分と考えられる範囲で簡素化し事務量の軽減を図れると,もっと良いのですが.また,種々の競争的経費の費目が緩和され,執行期間の緩和と共に,若手研究者の「給与」に使えるようになれば数理科学のような理論を中心とする分野では大変「使いで」のある経費となり,予算の申請でもこれまでにない楽しみが出てくることでしょう.  

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人事ニュース

(※平成11年11月22日以降の異動一覧です。)

教官

☆転入
異動年月日氏名新官職旧官職等
12.4.1神保 道夫 大学院数理科学研究科 教授京都大学大学院理学研究科 教授
12.4.1古田 幹雄大学院数理科学研究科 教授京都大学数理解析研究所 教授
12.4.1 林 修平大学院数理科学研究科 助教授早稲田大学商学部 助教授
12.4.1平地 健吾大学院数理科学研究科 助教授大阪大学大学院理学研究科 講師
12.4.1 辻 雄大学院数理科学研究科 助教授京都大学数理解析研究所 助手
12.4.1 WEISS, Georg大学院数理科学研究科 助教授東京工業大学大学院理工学研究科 助手
12.4.1 坂井 秀隆大学院数理科学研究科 助教授日本学術振興会特別研究員
12.4.1小澤 登高大学院数理科学研究科 助手東京大学大学院数理科学研究科博士後期課程
12.5.14 ILLUSIE, Luc大学院数理科学研究科 客員教授パリ大学南校 教授
12.10.1WINKELMAN, Jorg 大学院数理科学研究科 助教授バーゼル大学 助教授
12.10.1JENSEN, Arne 大学院数理科学研究科 客員教授アールボルク大学 教授
☆転出
異動年月日氏名新官職旧官職等
12.3.31難波 完爾停年退職大学院数理科学研究科 教授
12.3.31黒田 成信停年退職大学院数理科学研究科 教授
12.8.31KABANIKHINE, Serguei任期満了大学院数理科学研究科 教授
12.10.1柳田 英二東北大学大学院理学研究科教授大学院数理科学研究科 助教授

職員

☆転入
異動年月日氏名新官職旧官職等
12.1.1出射 宏恵教養学部等総務課数理科学総務掛
12.4.1柳澤 賢次教養学部等総務課数理科学総務掛長 東洋文化研究所庶務掛長
12.4.1堀越 文夫教養学部等教務課大学院第二掛長 放送大学学園第二学習センター教務係長
12.4.1布施 百合子教養学部等図書課数理科学図書掛長 教育学部・教育学研究科図書運用掛長
12.4.1福田 明子教養学部等総務課数理科学総務掛医学部附属病院医事課入院センター
12.4.1武内 東子教養学部等総務課数理科学総務掛 教養学部等総務教務企画掛
12.12.1神子 歩教養学部等図書課数理科学図書掛
☆転出
異動年月日氏名新官職旧官職等
11.12.31鈴木 順子辞職教養学部等総務課数理科学総務掛
12.3.31長倉 伸子定年退職教養学部等図書課数理科学図書掛長
12.4.1吉原 珠恵 理学系研究科等生物学科事務主任教養学部等総務課数理科学総務掛長
12.4.1大塚 幸男法学部・法学政治学研究科学務主任教養学部等教務課大学院第二掛長
12.4.1河島 淑美教養学部等総務課教室事務掛教養学部等総務課数理科学総務掛
12.4.1田中 明子放送大学学園教務部教務課教務第三掛教養学部等教務課大学院第二掛
12.10.31細井 美希辞職教養学部等図書課数理科学図書掛  

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新任教官紹介

 神保 道夫 教授

平成12年4月1日からお世話になっています。
本学で学部を修了した後は京大数理研と京大理学部におり、 26年間を京都で過ごしました。もともと関東(千葉)の出身で、 東京も駒場キャンパスも初めてというわけではないのですが、 いろいろな面で戸惑うことも多く、通勤ラッシュを含め 慣れるまでまだ時間がかかりそうです。よろしくお願いします。
これまで統計力学や場の理論に現れる 無限自由度の可積分系に興味を持って来ました。
最近この分野では、どちらかといえば模型そのものよりもそこから 派生する表現論や組み合わせ論の研究の方が活発で、 遅まきながら少しずつ勉強を始めているところです。
もう少し本来の可積分系自身の理解を進められるとうれしいのですが、 日暮れて道遠しの感を深くしています。           

 古田 幹雄教授
           

 2000年4月に京都大学数理解析研究所から転任してまいりました.
4次元トポロジーと大域解析学との接点で, ゲージ理論とよばれる分野に携わってきました.
できることはできるが,できないことはやはりできない. こうした壁を,閉塞的に受け止めてしまうか,チャレンジすべき 山と見たてるかの間でずっとゆれてきた気がします.
 95年までの数年は駒場におりました.当時の建物はもはや一階は もぬけの殻で,得体のしれない部屋がいろいろありました. 春には,梅の実を有志の人々で拾ってきて 梅酒にしたり,ほんわかした雰囲気がありました.
 一方で,たまたまそのころ組織が変わる際の ごたごたとはいえ,およそ学問を支えるべき理とは程遠いものがあったことも 忘れられません.少なくとも私はそう感じていました.
 現在の東大数理は当時とは建物も替わり,人もかなりの出入りが あったと思います.現在私は幾何班の所属ですが,班外のことは 教室規模が大きいためもあって,まだ事実上見えていません.しかし, 転任前に想像し覚悟していたのと比べると,なごやかで 元気な雰囲気に迎えられた気がしており,感謝しております.
どうかよろしくお願いいたします.

  林 修平 助教授
           

 2000年4月1日付けで、早稲田大学商学部より本研究科に移籍してまいりま した。
 これまで文系の学部に所属していたためか、数理科学研究棟にいると何か良い アイデアが浮かびそうな気持ちになります。このような感覚はこれまでブラジル まで行かないと味わえなかったものでした。
 私の専門は力学系ですが、私の研究して いる分野は主にブラジルのリオデジャネイロにある IMPA と呼ばれている研究所で中 心に研究されています。いわゆる Smale 流の力学系ですが、意外なことにその本流 はIMPA にあります。 Smale が高次元ポアンカレ予想の証明と Smale 流の力学系 理論のアイデアを得たのは IMPA 及び、リオのビーチにおいてであることは一般には あまり知られていないと思います。Smale は Peixoto という IMPA のブラジル人数学 者を通じて力学系を始めました。その後、アメリカで Smale の学生が強力なグループ を作りましたが、その中の1人でブラジル人 の Palis が IMPA に戻り、彼の学生が中心となってその後を引き継いでいます。もう少し具体的には、安定な力学系は双曲性と呼ばれる性質を持つわけですが、この性質を持つ力学系は色々な方向から調べられて今では非常に良く理解されています。同様の理解を安定でない、つまり非双曲型力学系の方に拡げていこうという観点から、 現在のIMPA の所長 でもある Palis によるプログラムがあり、そのプロジェクトに参加させて頂いているわけです。日本ではまだマイナーな分野ですが、それだけに何か貢献できることがあるのではないかと思っています。よろしくお願いいたします。

  平地 健吾 助教授
 4月に大阪大学大学院理学研究科数学教室から転任してまいりました。
阪大数学科に入学してから講師になるまでの15年間,ずっと同じ建物に通っていたので,今回の環境の変化を戸惑いながらも楽しんでいます.東大数理に来て最初に感じたのは教室 の運営のルールが明確でシステムとして機能していることです.小さなことですが, 夏の西瓜割り大会などのレクリエーションが数理として行われていることは素晴らし いことだと思います.阪大でもいろいろな行事があったのですが重点化とともに消滅 してしまいました.これからも教室としての行事を大切にしていってほしいと思いま す.
 専門は多変数関数論です.20年前に C. Fefferman の提案した「多変数複素解析 に現われる不変式論」の研究プログラム(研究目録)に大きな影響を受けています. このプログラムの最初の目標は不変式論を用いてベルグマン核の漸近展開を記述する ということでしたが,この問題についてはまとまった結果が得られてきています.今 は Fefferman の枠組みを超えようと試行錯誤しています.これらの研究につきまし ては次号の「数学」(2000年10月)に論説を書きましたのでご覧いただければ 幸いです.もう一つ宣伝になりますが,私の私的 Web ページ (http://www.ms.u- tokyo.ac.jp/~hirachiからリンク) には,旅先(ほとんどは出張先)で描いた水彩ス ケッチを載せています.興味のある方はこちらもご覧いただければ幸いです.    

 辻 雄 助教授
           

 2000年4月に京都大学数理解析研究所から転任して来ました辻 雄(たけし)です。
もともと東京の出身で7年ぶりに東京に戻って来ました。
 京都での比較的のんびりした生活にすっかり慣れてしまったせいか、人の多さや歩く速さに未だに圧倒されています。数理研では研究のみだったので、今回はじめて学生を教える立場になりました。14年前には同じ教室で授業を受けていたことを思うと、不思議な感じがすると同時にその 責任を痛感しています。
 研究の方ですが、大学院の頃からずっとp進Hodge理論を中心に研究をしています。それに関連してlog 代数幾何やcrystalline cohomologyについても少し研究してきましたが p進Hodge理論は通常のHodge理論の類似をp進体上の代数多様体で考えるというものです。2年程前からは、G. Faltingsのalmost etale拡大の理論を用いる手法を用いて研究していますが、この理論の主定理の証明は難解で未だに格闘中です。今年になってからは、この格闘に少し疲れて一時休止。p進L関数、特に虚2次体、総実代数体、CM体に伴うp進L関 数を、p進Hodge理論の立場から研究しています。しばらくはこの研究を続けようと思っています。
 これから、特に講議や大学院のセミナーに関して、いろいろ御指導頂くことが多いと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。

  ヴァイス ゲオク 助教授
           

   新しいミレニアムの元年4月1日に研究科に転任しましたヴァイスです。
ドイツのBonn大学で博士号を取得してから約2年間Bonn大学で助手をしました。そして、一年間招聘研究員として千葉大学に来てから96年4月から4年間東京工業大学で助手として勤めていました。まだ東工大の談話室での付き合いと、大岡山での多様な味覚の楽しみ(大岡山にはおいしいレストランがたくさんあります)が懐かしいですが、研究にはいろいろな面で規模の大きい教室のほうが良いと思います。
 こちらの数理科学研究科には数多くの分野が集まっているので、他分野から影響をうけたり、または他分野から手法をとり入れたりすることが可能です。
 私の研究分野は非線形偏微分方程式論です。特に自由境界問題、正則性論、特異極限問題、変分問題などに興味があります。自由境界問題は、その困難点の面からも方法の面からも、流体力学の方程式、プラトー問題および幾何学的タイプの方程式、blow-up 現象、調和写像などと深い関係があります。ですから、幾何学的測度論、幾何解析と調和解析が自由境界問題の研究に常に大切な役割を果たしていることは不思議ではありません。私も、その傾向に貢献できると幸いです。どうぞよろしくお願いします。

  坂井 秀隆 助教授

 2000年の4月から東大にお世話になっています。
3月まで京都大学の数学教室で学生をやっていました。
 もともと東京出身で、大学進学で京都に行くまでは東京に住んでいて、今も実家から駒場に通っています。今勉強している内容は、特殊関数論で、特にパンルヴェ方程式とよばれる6つの非線形微分方程式や、その多変数への拡張、あるいはその離散化としての差分方程式などについて、対称性や特殊解の構造などについて少し計算したりしています。微分方程式の解法理論など、解析の問題を代数的に扱える分野に興味があります。本当は性格的にたくさんのことをきちんと勉強するということができないタイプなのですが、京都では周りにいろいろな分野の人がいて、耳学問でいろいろと教えてもらうことができました。逆に言えば自分と同じような問題意識でやっている人がほとんど無かったので、人の話を聞くとそうなると言うことだったのかも知れません。その点、東大には院生の人の中にも近い問題意識でやっている人が結構いるので、ワイワイと細かい議論ができるのが楽しいです。
 数学はその周りに広がる広大な応用の分野を除いてしまうと、代数、 幾何、解析と分けることが普通だと思います。それでも、僕の中で はそれほど分野がくっきり分かれてしまうものでもなくて、解析は 問題意識に一番近いもので、幾何は見通しを、代数は方法を与えて くれます。どれも不可欠なものです。人によっては、幾何に問題意 識があり、代数が見通しを解析が方法を与えるかも知れません。い ずれにせよ三つにまたがったところで楽しい物語が書けたらいいと 思っています。

  小澤 登高 助手

 2000年4月に助手として採用されました。感謝。  これまではここの博士課程に籍こそおいていましたが、 実際はテキサスとパリにいました。 それゆえ皆さんと会う機会があまりありませんでしたが、 これからはよろしくお願いします。
 私は作用素空間論という比較的新しいマイナー分野の研究をしています。 作用素空間とはヒルベルト空間上の有界線形作用素を係数とする バナッハ空間のことです。 私が特に関心を持っているの作用素空間論の作用素環論への応用です。

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数理の行事

平成12年3月17日退官教官による特別談話会が開催された。
同日、夕刻、数理科学研究科送別会が行われた。

難波 完爾 先生 講演題目
「Memory and hope for numbers and cardinals」

黒田 成信 先生
「二つの平方の和となる整数の整数論」

平成12年7月19日に恒例の夏のビアパーティーが開催された。
当日は、教官、学生、職員が手作り料理と西瓜割り等で盛り上がった。

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 2000年5月に運用を始めた数理新基幹システムは、順調に稼動を続けています。新システムは、現在及び近い将来の需要を満たす能力を持っているだけでなく、セキュリティに十分注意を払ったシステムです。また、ホームページのサービス(「http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~ユーザ名」で参照できる)や、パソコン用メールソフトウェアのサーバとしての機能(POP, IMAP)も持っていますので、これまで基幹システムを使っていなかった方もぜひこの機会に基幹システムを使ってみてください。
 コンピュータやインターネットのセキュリティ事情は悪化の一途をたどっています。数理ネットワークに接続されたパソコン・ワークステーションや、ファイルを外部とやり取りするパソコンなどは、常にセキュリティ上の脅威にさらされています。計算情報業務室では、情報基盤センターと協力してセキュリティ診断を行うとともに、随時情報を提供していますので、パソコンやワークステーションを運用している方は常に対策を怠らぬようお願いします。
 最近、インターネットにビデオやオーディオを流すことができるようになってきています。数理でも、大講義室で行われる会議やセミナーなどを、リアルタイムでインターネットに中継したり、ディスク上に保存しておいて後に見たりすることができる設備を用意しています。興味のある方は、計算情報業務室にご相談ください。
数理基幹システム、セキュリティ関連などの最新情報は、計算情報業務室のページ http://cnmg.ms.u-tokyo.ac.jp/ を見てください。

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編集後記

  数理ニュースの編集をサボったまま,アメリカに来てしまって,みなさまに大変ご迷惑をおかけしました.
この号が出るようになったのはすべて佐藤さんのおかげです.(河東)

広報委員会
委員 河東 泰之
数理ニュース編集局 佐藤 真理子

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