数理News 2007-2

東京大学大学院数理科学研究科     2008年3月31日発行

編集: 広報委員会

数理ニュースへの投稿先: surinews@faculty.ms.u-tokyo.ac.jp

数理ニュースホームページ: http://faculty.ms.u-tokyo.ac.jp/~surinews/

目次


   

アマチュアの数学とプロの数学

          副研究科長 大島利雄

 

 昔,私より若い論文の共著者に私の数学を「アマチュアの数学」と評されたことがあ ります。プロの数学者とは,数学の理論を作ってそれを発展させて守り育てている人とか, あるいはある分野をマスターしてさらにその先を目指している人,というイメージ を私は持っていたので,自分がなろうとする数学者は違うと思い,この評は大変うれし く感じました。高校時代からの親友に「お前は勉強がきらいなのに,どうして数学者の 道を選ぶのか?」と言われたくらい勉強嫌いであった上,単純なことの記憶力が異常なほど乏しいことを自覚していたので,このようなプロの数学者になることは考えていませんでした。

 アマチュアの数学では,先人の手法を学ぶ必要はないので,興味を持った疑問点や理論について自由に考えを巡らせることができます。私は勉強は嫌いだが考えることは好きです。先人の結果はその後で参照するようにしないと,私の場合,身につかないし効率も悪い。自分で考えてから先人の結果を見ると,なるほどと思うこともありますが,異なる考えを得て理解がより深まったり,自分で考えを巡らせたことが新しい見方であることも多いのです。また一つの分野を守る必要もないので,別の新しい問題に取り組むのも自由にできます。

 私が学生だったころ「数学は一つ」という言葉がはやりました。発展して細分化の方 向に向かい,分からない数学が増えるように見えても,より高い見地に立てば大事なことは統一して理解できる,というようなことを言っているのだと思います。このような 見地を得るには,自分の見方で様々な数学を理解することが必要でしょう。大昔の数学者はそのようでなかったか,と思うし,たとえば佐藤幹夫先生やGelfand先生の数学にはそのようなとても楽しい数学を感じることができます。

 私自身,最近は特にアマチュア精神で楽しく数学の研究をしています。結果として, 今年度は,数理物理,表現論,偏微分方程式の各分野でそれぞれ30-50ページ程度の論文を出版することができ,代数の論文がレフェリー中です。また,多変数の超幾何に関するいくつかの結果を得ましたが,現在は常微分方程式に興味を持っています。関連して三角関数の綺麗な恒等式が示され,昨年12月には組み合わせ論的な予想(Rigid分割3.1.1予想)に行き着きました。予想は小学生にも理解可能なのですが,現時点で未解決です。以下に解説を書きました。

 http://akagi.ms.u-tokyo.ac.jp/~oshima/trigid.pdf http://akagi.ms.u-tokyo.ac.jp/~oshima/rigid311.pdf

ただし,予想を本当に小学生に説明するときは,より易しく解説してあげてください。

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人事ニュース

(※平成19年9月10日以降の異動一覧です。)

教員

☆転入
異動年月日 氏名 新職名 旧職名等
19 .10. 1

齊藤 宣一

大学院数理科学研究科 准教授

富山大学人間発達科学部 准教授

19. 10. 5 D.Kaledin 客員准教授( H19.10.5 〜 20.3.31 ) モスクワ独立大学 教授
19. 11. 1 児玉 大樹 大学院数理科学研究科 特任助教 数理・研究拠点形成特任研究員

職員

☆転出
異動年月日 氏名 新職名 旧職名等
19. 11. 30 大島 彩美 退職 教養学部等総務課数理科学総務係
20. 1. 31 池田 千陽  退職 教養学部等教務課数理科学教務係

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新任紹介(教員)

 小林 俊行 教授

駒場に戻って感じたこと

 何年かぶりに東大に戻ってきた。東京といってもこのあたりは、高層の建物があまりなく、光があふれている。運動場にめぐまれた駒場キャンパスは私にとって、数学漬けの日々を過ごした本郷キャンパスとは違い、スポーツの記憶にもつながっている。 
 数学科に進学した直後の2年生後期には加藤晃史さん(現東大数理)と益岡竜介さん(現富士通)に半年ほどではあったがテニスの手ほどきをしてもらった。 
 体育の授業で覚えたバレーボールも楽しかった。駒場の駅を降りて数理の建物に向かう途中にある屋外コートで、毎週よく練習したものだ。 
私は中高で卓球の部活動をしていた。卓球ではたまたま世界チャンピオンの選手に教えを受けたことがあったものの、バレーボールは全くの自己流だった。駒場の体育の授業の先生が教えてくださるトレーニング法とその根拠には感心させられた。以前に全日本女子バレーの指導をされていたとのことだったが、「東大生は全日本の選手とは違う、だから当然その違いに見合った指導をする」という姿勢に感銘を受けた。なによりも、指導の端々に「とにかくケガをさせない」という暖かいまなざしがあった。
 その先生に刺激されて、どういう手首の動きで打てばいいのかを研究してみたくなり、紙風船を使うことを思いついて、空中にふわりと紙風船を浮かばせて試行錯誤を繰り返したこともある。この練習が役に立ったとは全然思わないが、チームが編成されてゲームをするようになってからは、私のいたチームはなぜか無敗で2回優勝した。
 その後、本郷キャンパスに移り、修士号をとって助手となってからも、また北欧やプリンストン(米国)などに渡航して研究生活をすることになった先でも、誘われるままバレーボールをした。海外では身長が190cmを越える人たちも多いので、垂直方向に飛んで張り合うのはあきらめ、水平方向に活路を見出してはよく回転レシーブ(こけてレシーブ)をして球を拾っていた。
 数学でなにごとかをなさんと思うならば、心身ともに壮健であるにこしたことはない、と思っていた頃の話である。


齊藤 宣一 准教授

 2007年10月1日に、富山大学人間発達科学部(教育学部)から、ここ東京大学大学院数理科学研究科に着任いたしました。私の人生設計の中に、東大の先生になることは含まれておりませんでした。人生、何が起こるか分からないものだとしみじみと実感しています。
 私の研究テーマは、偏微分方程式の数値解析、すなわち、偏微分方程式の解をコンピュータ上で再現し研究するための離散化手法の開発とその正当性・実現性の研究です。具体的には、非圧縮性粘性流体の運動を記述するNavier-Stokes方程式や細胞性粘菌の凝集現象を記述する Keller-Segel方程式などを対象としてきました。コンピュータ・シミュレーションによる現象の研究は、狭い意味での理工学を超えて、生命科学、臨床医学、経済学にまで応用範囲を拡げ、幅広く有益な情報をもたらしており、したがって、偏微分方程式の数値解析は、「真理の追求」と「社会への貢献」を両立できる、とてもやりがいのあるテーマであると思っています。
   さて、六年半を過ごした富山の生活環境は(冬季の天候を除けば)申し分のないものであり、富山大学の学生も気立てが良く、毎日楽しく働くことができましたが、所属が教員養成系学部でしたので、学部の教育と自身の研究とは全く別のものでした。東大では、院生・学生(あるいは周辺の人々)を巻き込みつつ、自身の研究を拡げたり深めたりしたいと思っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。


児玉 大樹 特任助教

 10年ほど前から、一時期海外に出ていたときを除いて、学生・ポスドクとして東大数理におりましたが、今回、2007年11月から2010年3月まで、任期つきの助教として東大数理にお世話になることになりました。専門はトポロジーで、学生時代は坪井俊教授に師事して葉層構造論や接触構造論を学んできましたが、最近では、平面にはめ込まれた閉曲線のなすモデュライ空間や、微分同相群の完全性などの分野にも手を出しています。
また、任期中には先端研と共同で、生命情報分野に関しても研究することになっており、こちらのほうも楽しみにしています。任期中になるべくさまざまな分野の人と話をし、研究に活かしたいと思っています。よろしくおねがいします。

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玉原国際セミナーハウス2007年度の活動  

平成19年度玉原国際セミナーハウスの利用者数は延べ(宿泊料金を払った)1220人+進学生29人、合計1249人でした。昨年平成18年度の延べ1084人+進学生28人、合計1112人、 一昨年平成17年度の延べ891人+26人、合計917人に比較して 順調に利用者が増えています。

 本年度は、5月19日から11月2日まで利用され、利用した27グループのうち、学術セミナー、シンポジウムの利用は17グループでした。特に、6月3日から8日には堀場国際シンポジウム「p-adic aspects in arithmetic geometry」が、辻雄准教授、志甫淳准教授を組織委員として開催されました。また、昨年度に引き続き、理学部数学科進学生のオリエンテーションを10月13日、14日に行い29人の参加がありました。 

 地域貢献活動として、群馬県立沼田高校の協力を得て「高校生のための現代数学講座」を7月21日、28日に行い、群馬県教育委員会と数理科学研究科共催で「高校生玉原数学セミナー」を9月15日−17日に2泊3日で行いました。また、沼田市教育委員会と数理科学研究科共催で「沼田市中学生のための玉原数学教室」を10月6日に行いました。

 「高校生のための現代数学講座」は、「面積と体積」をテーマに今野 宏先生、古田幹雄先生、楠岡成雄先生、坪井 俊を講師としておこなわれ、70人近い群馬県の高校生と6名の高校教員の参加がありました。「高校生玉原数学セミナー」は「素数」をテーマに桂 利行先生、寺杣友秀、関口英子先生、坪井 俊を講師として行われ、群馬県高校生数学コンテスト優秀者19人、引率教員3人、教育委員会担当者1人の参加があったほか、TAとして理学部数学科3年生3人および数理科学研究科修士1年3人が参加しました。「沼田市中学生のための玉原数学教室」では、大島利雄先生「素数と暗号」、坪井 俊「頂点と辺と面」という講演を行いました。

・「高校生玉原数学セミナー」

  

これらの詳細については、ウェブページhttp://tambara.ms.u-tokyo.ac.jp/からのリンクをご覧ください。数理科学研究科の数理ビデオアーカイブスのプロジェクトにより、これらの講義の様子はビデオ映像として発信されています。

2006−2007年の冬は雪が余り降らなかったので、前年度必要だった玉原国際セミナーハウスの建物の修復費はかかりませんでした。本年度は、開所作業、閉所作業以外の時期にも建物管理のために事務の方々に玉原国際セミナーハウスに行っていただき、ペンキ塗りなどもしていただきました。 この場を借りてお礼を申し上げたいと存じます。

本年度の運営面では、玉原国際セミナーハウスに光ファイバーを引き、快適なネットワーク環境が提供できるようになったことが挙げられます。実際に、テレビ中継も可能な環境となっています。細かいことでは、調理人が替わったこと、昨年から始めたセミナーハウスとセンターハウスの間の送迎が定着してきたことがあげられます。

     

 玉原国際セミナーハウスがさらに多く利用され、数理の発展に寄与できることを願っています。

 (坪井 俊 記)

・「沼田市中学生のための玉原数学教室」

  

・「数学科進学生オリエンテーション」

  

 


研究ニュース 

○大規模相互作用系の確率解析の展開(PDFファイル)
 2007年度日本数学会賞秋季賞受賞 舟木 直久 教授

○特性類とシンプレクティック群の表現(WORDファイル)
 日本数学会2007年度幾何学賞受賞 森田 茂之 教授

○解析的トーションとモジュラス空間上の保型形式(PDFファイル)
 日本数学会2007年度幾何学賞受賞 吉川 謙一 准教授

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数理トピックス

●平成19年8月2日(木)駒場地区オープンキャンパスが開催されました。

 数理科学研究科にも多くの高校生が訪れ数理研究科棟の見学に始まり、懇談会、模擬講義に参加しました。

    


●平成19年度 大学院数理科学研究科修士課程入学試験が、平成19年8月27日・28日(筆記試験)、8月30日・8月31日(口述試験)の日程で実施されました。

  志願者 :147名(内本学出身者42名、他大学出身者105名)
  合格者 : 42名(内本学出身者25名、他大学出身者17名) 

●平成19年12月12日(水)教職員・学生が参加して環境整備が行われました。

   

●平成19年12月16日(日) 2007年度 数学公開講座(21世紀COEプログラム「科学技術への数学新展開拠点」)が大講義室にて開催されました。

◎公開講座 プログラム 
     テーマ:現象と数理

<講演者・講演題目>
  齊藤 宣一(東大)
 「連続と離散−微分方程式の視点から−」
  稲葉 寿(東大)
 「人口と感染症の数理」
  西成 活裕(東大)
 「渋滞の数理と実践」

    


第3回高木レクチャーが開催されました  

小林 俊行

 2007年11月23日、第3回「高木レクチャー」が、数理棟の大講堂において日本数学会と東京大学大学院数理科学研究科の共催で行なわれました。 今回の高木レクチャーの講演者は、確率解析やファイナンスで著名なマリアヴァン教授(パリ第6大学)と、世界最速のコンピュータを自作して多体問題の数値解析を行い、天文学の最先端の研究に挑んでおられる牧野淳一郎教授(国立天文台)のお二人です。

 

          
第3回高木レクチャーのマリアヴァン教授と牧野淳一郎教授    楠岡成雄教授の質問に応えるマリアヴァン教授

  マリアヴァン教授は「無限次元の群の不変および準不変な確率測度」と題した講演を、牧野教授は「手作り計算天文学 ― ハードウェア、アルゴリズム、ソフトウェア、サイエンス」と題した講演を、それぞれ午前、午後と連続して行われました。この日は駒場祭の初日でもあったのですが、早朝にマリアヴァン教授と一緒にキャンパスを歩いていると、そこここで学生が模擬店を準備している様子にも教授が関心を示され、敏感に反応されるので驚きました。ぬいぐるみを着た学生に出くわしたときなどは子供のように笑いころげられ、私は80歳を越えた教授の瑞々しい感性に触れた思いがしました。同時にまたマリアヴァン教授は「駒場祭に負けて講演に人が集まらなかったら、それは講演者の責任だ」と意気軒昂な言葉も吐かれ、たいへん頼もしく思いました。実際、休日にもかかわらず150人ほどの聴衆がつめかけた講堂には熱気が満ち、第3回高木レクチャーは盛会のうちに幕を閉じました。

      
      熱気につつまれた牧野淳一郎教授の講演      桂研究科長によるスピーチ(ワインパーティーにて)

  この高木レクチャーの準備と当日の運営にあたっては、桂利行研究科長、大島利雄副研究科長、楠岡成雄教授、組織委員の斎藤毅教授・河東泰之教授と私に加えて、事務職員の鴨下記代子さん・ネ内純子さん・吉村明日香さんや、本学学生有志も献身的に尽力してくださり、また、日本数学会からは理事長の谷島賢二教授、前理事長の小島定吉教授、事務局の長谷川暁子さんもかけつけてくださって、その活動が支えられました。講演の様子は東大数理ビデオアーカイブスプロジェクトチームによって撮影・記録され、ウェブで公開されています。講壇に飾られた美しい生け花は小林幸恵さんによる作品です。

高木レクチャーのホームページ http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~toshi/takagi_jp/

●平成20年1月21日(月) コモンルームにて第15回数理科学研究科留学生交歓会が開催されました。


平成20年1月21日(月)コモンルームで数理科学研究科留学生交歓会が開催されました。 毎年恒例の留学生パーティーも今年で15回目を迎えました。 会後半の桂研究科長の進行によるビンゴ大会では、留学生、外国人研究員・ビジター、教職員など、50名余りの参会者全員でおおいに盛り上がり予定の2時間があっという間にすぎ、午後8時過ぎに閉会しました。(国際交流室 中村)

    

                           

<賞>

舟木直久 教授が2007年度日本数学会賞秋季賞を受賞しました。
業績題目:大規模相互作用系の確率解析の展開


森田茂之 教授が日本数学会2007年度幾何学賞を受賞しました。
業績題目:写像類群を巡る一連の位相幾何学的研究


吉川謙一 准教授が日本数学会2007年度幾何学賞を受賞しました。
業績題目:解析的トーションとモジュラス空間上の保型形式に関する研究


吉田朋広 教授が、確率過程の統計推測理論とその実用的な応用に関する業績により、第1回日本統計学会研究業績賞を受賞しました。


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編集後記

2004-1 号より数理ニュースを担当させて頂きましたが、今号を最後に退職することになりました。記事の掲載希望、ご意見等ありましたらこれからも数理ニュース編集局までお寄せ下さい。 (メールアドレス: surinews@faculty.ms.u-tokyo.ac.jp)
今まで多くの方にご協力頂きありがとうございました。  (池田)

広報委員会
委員長 吉田 朋広
数理ニュース編集局 池田 千陽

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