数理News 2008-1

東京大学大学院数理科学研究科     2008年9月10日発行

編集: 広報委員会

数理ニュースへの投稿先: surinews@faculty.ms.u-tokyo.ac.jp

数理ニュースホームページ: http://faculty.ms.u-tokyo.ac.jp/~surinews/

目次


   

夢のある数学を

          研 究 科 長   桂 利行

 本研究科に関わる大きなプロジェクトが2つスタートした。昨年10月に設置された世界トップレベル研究拠点「数物連携宇宙研究機構」(IPMU)と、今年7月に開始されたグローバルCOE(GCOE)「数学新展開の研究教育拠点」である。前者は文部科学省が募集した世界のトップを目指す研究拠点であり、全国で5つの計画が採択された。東京大学からは、本研究科と宇宙線研究所(カミオカンデ)、理学系研究科物理学専攻が共同で提案したこの研究機構計画が採択された。理論物理学の村山斉教授を機構長としてバークレーから迎え、東京大学のどの部局にも属さない組織として設置された研究所である。来年度には約6000平米の近代的な建物が柏キャンパスに建設される。数学、物理、天文が融合したこれまでにない魅力的な組織であり、数学研究者のポストがここに誕生したことによる若手研究者へのメリットは計り知れないと思われる。一方、後者のグローバルCOEは川又雄二郎教授を拠点リーダー、野口潤次郎教授を拠点副リーダーとする組織であり、最終的には十数名の若手研究者が、特任助教などとして採用される見込みである。また、多くの博士課程学生をリサーチ・アシスタント(RA)として採用することにより、博士課程学生のための世界水準の支援を行い、数学研究の展開を図る計画である。

  最近、数学振興の必要性が盛んに説かれ、いくつかの試みがなされている。上記2つのプロジェクトもこの試みの一環として数えられるものである。科学を志す原動力は好奇心である。数学も面白くなければ、精神も体力も極端に消耗することを誰もやってみようとは思わないだろう。数学の発展のために立ち上げたこれらのプロジェクトが、ほんとうに面白くてわくわくするような夢のある数学を生み、日本の将来に大きな実りをもたらすことを切に望んでいる。

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人事ニュース

(※平成20年3月31日以降の異動一覧です。)

教員

☆転入
異動年月日 氏名 新職名 旧職名等
20.4.1

Ahmed Abbes

客員教授(H20.4.1〜20.9.30) 国立科学研究センター 研究員
20.8.1

逆井 卓也

大学院数理科学研究科 特任助教 東京工業大学大学院情報理工学研究科 特別研究員

職員

☆転入
異動年月日 氏名 新職名 旧職名等
20.4.1 山路 恵 教養学部等総務課数理科学総務係  
20.4.16 宮川 五月 教養学部等総務課数理科学総務係  
20.7.1 池田 賢司 教養学部等教務課数理科学教務係長 教養学部等教務課総合文化大学院係主任
20.8.1 松本 明子 教養学部等総務課数理科学総務係  
☆転出
異動年月日 氏名 新職名 旧職名等
20.3.31 中西 智子 退職 教養学部等総務課数理科学総務係
20.4.1 山口 雅美
教養学部等総務課職員係
教養学部等総務課数理科学総務係
20.7.1 米山 永子 工学系・情報理工学系等学務支援グループ係長 教養学部等教務課数理科学教務係長
 

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新任紹介(教員)

  Ahmed Abbes 客員教授

 I work in the field of arithmetic geometry. My recent work focuses on ramification theory and rigid geometry. I work for the Centre National de la Recherche Scientifique (CNRS) at the University of Rennes (France).
 Since I accepted the invitation of my friend Professor Takeshi Saito to spend 6 months at Todai, I knew that I would have a studious stay, as I have always had in Tokyo. After 4 months, my current visit - which is by far the longest in Japan - turns out to be also the most studious and productive. During the first three months, I gave a course on rigid geometry following the approach of M. Raynaud, covering the topic of a book that I am currently writing. My joint work on ramification theory with T. Saito has also greatly benefited from this stay. A new joint preprint on "Local Fourier transform and epsilon factors" should appear soon.
 After many visits and this long stay, I have been in Japan without having seen many things. I have never attended a kabuki performance, nor have I visited the Izu Peninsula. I have not taken a single night in a capsule hotel nor have I seen a single pusher in the Tokyo subway. But there is worse, the incomprehensible, inexcusable negligence, I must confess: I have been staying in Japan for so long without having been to Mount Fuji! Truly, I am a very bad tourist.


  逆井 卓也 特任助教

 2008 年 8 月 1 日に, 東京工業大学大学院情報理工学研究科 (PD) より数理科 学研究科に着任いたしました. とはいうものの, ご存知の方も多いかと思いますが,今年の 3 月末までの 9 年間, 学生や PD として数理棟に通っていました.
なお, 任期は 2012 年の 3 月までの, 3 年と 8 ヶ月です. つい最近まで通っていたということで, 諸先生方の部屋や院生室, 事務室や図書館の位置をはじめ,数理棟内の生活において迷うことはほとんどありませんが, 新たな身分ということで, 気持ちをあらためて,研究や教育業務にあたっていきたいと思っております.
 専門はトポロジーで, 学生のときは森田茂之先生のもとで, 曲面の写像類群や3 次元多様体論に関する研究をしていました. 最近はそれらに加え,リーマン面のモジュライ空間の組み合わせ的構造との関連などにも注目しています.研究道具として, 通常のトポロジーで用いられるものに加え, 表現論や非可換環論,数式処理の理論なども用いています. コーヒータイムの折などに, 皆様に,専門家の方々にとって簡単なことも含めていろいろとご質問することがあるかと思いますが, その際には易しく (優しく) 教えて下さるとうれしいです.
 10 年ひとむかしといいますが, 1997 年 4 月に初めて駒場に来たときと比べ,キャンパス内は大きく様変わりしています. 数理科学研究科だけをみても常に進化を続けています. 今年度からは GCOE プロジェクトも始まり, その進化のスピードはますます速くなると思います. その勢いに乗り遅れることがないように日々精進していくとともに,演習やセミナーなどでの学生とのコミュニケーションを通じて,これまで皆様にお世話になってきた分を少しでも還元することができたらいいな,と思っております.
 よろしくお願いいたします.


新任紹介(職員)

  池田 賢司 教務係長

 7月1日付けで総合文化研究科から異動してまいりました池田と申します。同じ大学院でも研究科が違うと、仕事も全然違うので毎日新鮮な感じで勤務しております。
 皆様にご迷惑をおかけしないよう頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします。
 趣味はテニスで、昼休みは毎日テニスコートで汗を流しております。


  山路 恵 事務補佐員

 4月1日付けで、当研究科総務係に採用になりました山路恵と申します。
 主に旅費、出勤簿管理、兼業関係を担当しております。早く仕事に慣れ皆様のお役に立てるように頑張りたいと思います。ご指導のほど宜しくお願いいたします。

 
  宮川 五月 事務補佐員

 4月16日付で数理総務係に採用されました宮川五月と申します。科研費業務を担当させていただいております。
 2年前まで教養・教務課に勤務し、留学生に接する仕事をしておりました。
 新しい環境に慣れない毎日ですが、一生懸命勉強してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


  金子 道子 派遣職員

  5月1日より野口潤次郎教授の研究室でお仕事をさせていただいております。
野口先生はじめ皆様に教えていただくことばかりです。早く仕事に慣れ、皆様のお役に立てるよう頑張りますので、どうぞ宜しくお願いいたします。


  富樫 園子 派遣職員

 6月2日より派遣社員としてお世話になっております。
 不慣れなためご迷惑をおかけしているかと思いますが、早く皆様のお役にたてるように頑張ります。よろしくご指導のほどお願い致します。


  松本 明子 事務補佐員

  8月1日付けで、グローバルCOEプログラムの事務補佐員として採用になりました、松本明子と申します。精一杯頑張りますので、ご指導のほど宜しくお願い致します。

 

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数物連携宇宙研究機構(IPMU)について 

河野 俊丈

 数理科学研究科の皆様もすでにご承知のように,東京大学の柏キャンパスに数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe 略称IPMU)が,文部科学省の世界トップレベル国際研究拠点の一つとして,2007年10月1日に発足致しました.IPMUは数学と物理学の従来の分野の枠を超えた新しい研究領域の創設を目指す国際的な研究機関です.機構長にはカリフォルニア大学バークレー校の村山斉教授が任命され,2008年1月に着任されました.数理科学研究科はIPMUの提案部局の一つであり,発足にあたっては, 桂利行研究科長も大いに尽力されました.現在,数理科学研究科からは神保道夫教授と筆者がIPMU主任研究員として参加しているほか,加藤晃史,斉藤義久,細野忍,吉川謙一の各准教授が併任としてIPMUの活動に関わっておられます.専任のIPMUのスタッフとしては,数学では,斎藤恭司,土屋昭博の両教授が主任研究員として,また,戸田幸伸氏が特任助教として着任されました.それ以外に数学の特任研究員が2008年9月時点で5名程度になる予定です.現在のIPMUのスタッフのリストについてはIPMUのwebsite http://ipmu.jp/ のScientific Staffsの項目をご覧下さい.メンバーの中には,弦理論など数学と縁の深い理論物理学者も多く含まれています.IPMUの専任の研究者はこの秋で40人以上になる予定です.数学のスタッフも外国人も含めて,さらに新しいメンバーが加わる見込みです.

 2008年3月11日と12日に東京大学柏図書館のメディアホールにおいてIPMU発足記念シンポジウムが開催されました.数学,物理学,天文学の各分野をリードする研究者による招待講演が行われ,170名をこえる参加者がありました.数学からは,S.T.Yau氏,深谷賢治氏が講演されました.

 IPMUでは平均して月一回程度の国際研究集会が開催されています.また,水曜日にコロキウム,木曜日に数学と物理を中心としたセミナーが定期的に行われています.数理科学研究科でも月2回程度,IPMU Komaba Seminarと称するセミナーを開催していて,柏キャンパスとテレビ会議システムによってつなぐことも行っています.柏キャンパスは駒場からはやや遠いのが難点ですが,テレビ会議システムを通して,駒場からIPMUの活動に参加して頂くことも可能ですので,是非ご活用下さい.研究会やセミナーについての情報は,IPMUのwebsiteでご覧になれるほか,数理科学研究科棟1階エレベーターホール横のIPMU掲示板にも情報を随時掲示しています.また,ビジターについての情報もこの掲示板にありますので,ご関心のおありの方は直接コンタクトをとっていただければと思います.今後,IPMUのスタッフやビジターが数理科学研究科のセミナーで講演したり,議論のために来訪される機会も多くなると思います.数理科学研究科棟では,001号室をIPMUのスタッフのための控え室として使用しております.

 IPMUは昨年の10月の発足以来,東京大学柏キャンパスの総合研究棟に研究室と事務室のスペースを設けていましたが,今年の5月に,宇宙線研究所の北側のスペースに,セミナー室もそなえた2棟のプレハブ研究棟,さらに6月にも談話室のある,もう1棟のプレハブ研究棟が完成しました.なお,建築予定の5階建て,約6,000uの研究棟は来年秋の完成を目指し,設計の最終段階を迎えています.予定では,自然光の入る400uほどの大きな交流エリアがあり,テーブル,椅子,黒板などがならべられて議論のためのスペースが設けられます.

 IPMUの研究領域は,数学,物理学,天文学などの多岐の分野にわたりますが,新地平を切り開く研究を行うためには,数学の役割が大変重要であることが認識されています.我々も,IPMUに新しい数学の拠点を創るべく努力しています.IPMUの発展のためには,数理科学研究科の皆様のお力添えが欠かせません.今後ともIPMUの活動にご協力いただけますようよろしくお願い申し上げます.

IPMU研究棟の予想図


グローバルCOEプログラムの採択を受けて 

拠点リーダー 川又 雄二郎

 グローバルCOE事業「数学新展開の研究教育拠点」がスタートしました。この事業は、数学新展開という言葉をキーワードに21世紀COE事業「科学技術への数学新展開拠点」の後継として、2倍以上に規模を拡大した形で今年から5年間の予定で実施されます。21世紀COEの経験を生かして、そこで得られた数々の成果をさらに大きなものへと発展させていきたいと思います。

 目標は、数学の先端研究における国際級センターの地位を確立し、広い意味での数理科学の人材供給基地になることです。大学院の充実と研究の国際化を通して、先端研究現場で人材を育成するというのがコンセプトです。「数学イノベーション」とも呼ばれる数学の応用範囲の広がりとともに、コア数学のなかへの新展開も目指します。

 「数学はひとつ」といわれます。本学数学教室の卒業生である小平邦彦先生(フィールズ賞受賞者)は代数・幾何・解析の各分野を広くカバーした深い研究業績を上げられました。われわれは小平先生という素晴らしい手本を持っているのです。また、伊藤清先生(ガウス賞受賞者)も同時期の卒業生であるということは、純粋数学(またはコア数学)と応用数学(または産業数学)は一体のものであるということを示しています。純粋数学で業績をあげた人が応用数学に守備範囲を広げることができるのも、数学はひとつだからです。

 多数の外国人ビジターが集う世界に開かれた研究科を目指します。スローガンは「東大に行けば誰かに会える」です。国内外から優秀な人材を特任教員として招聘するほか、多くの短期ビジターを国際研究集会や共同研究に招きます。国際的人材が行きかい、高いレベルで刺激しあうという拠点を目指します。特に優秀な若手研究者には、小平先生にちなんだ「小平フェロー」の称号を与え奨励します。

 博士課程大学院生の大部分をRAに採用し、経済的に自立して研究に専念できるようにします。RAにはTAとして短時間の教育活動を義務付け、将来教育職に就いた場合のキャリアにも配慮します。若手の特任教員には、研究に支障のない範囲でさらに重要な教育活動を担ってもらいます。

 以上のことをイメージ化したのが図1です。数学の長い歴史によって培われた土壌=「数学の底力」の上に、GCOEの太陽光線がさんさんと降り注ぐと、薄い緑で表現された若手研究者がすくすくと育ち(大きいものも小さいものもあります)、同時に濃い緑で表現されたシニア研究者の研究成果が次々とわきあがってきます。図2はGCOEの実施体制を表しています。GCOE戦略会議を中心に若手研究者を強力に支援していくシステムです。

(図1) (図2)

 最後に、21世紀COEの成果の実例をご紹介します(図3)。上段にある図形が渦巻いているように見えるのは目の錯覚です。このような錯視現象は心理学的に分析されてきましたが、新井教授によるウェーブレット・フレーム解析を行うと、錯視成分が定量的に抽出できるばかりではなく、逆向きの錯視成分という隠し味の存在も明るみに出るのです。なお、これらの図はヒアリング審査(面接試験)のときに使用しました。

(図3)

 GCOEの選考の過程では、数学分野以外の多くの指導的な方々に出会うことができました。世の中には「数学をやって何の役に立つのか」と問う人もありますが、数学に親しみを感じる心ある人たちも多いことを発見し、数学の重要性を再認識させられました。このプログラムは、多額の国費を頂いて、数学の次世代を担う国際級の人材の育成を目指すものです。その期待にこたえるためには、さまざまな面でとびぬけたレベルの成果が要求されています。若手の研究者たちには、良い意味でのノーブレス・オブリージュを自覚し、数学の研鑽に励むと共に、人間的にも素晴らしい人に育ってほしいと願っています。

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研究ニュース 

視覚と錯視の数学的新理論の研究 (PDFファイル)
平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)受賞 新井 仁之 教授

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数理トピックス

●平成20年3月19日(水)  駒場エミナースにて懇親会が盛大に行なわれました。

  
  

●平成20年3月24日(月)修士課程・博士課程学位記伝達式が数理科学研究科大講義室で行われました。

平成19年度修士課程修了者 : 43名
平成19年度博士課程修了者 : 15名

  

●平成20年4月4日(金)修士課程・博士課程入進学式が大講義室で行われ、桂 利行 研究科長、舟木 直久 専攻長、来賓として藤田 宏 東京大学名誉教授より祝辞(PDFファイル)を賜りました。

平成20年度修士課程入学者   : 43名  
平成20年度博士課程入進学者 : 21名

●平成20年4月23日(水)コモンルームにて春の懇親会が行われました。テーブルが見えないほどの大勢の学生、教職員の参加で賑わいました。

   

●平成20年6月10日(火)教職員・学生が参加して環境整備が行われました。この日の気温は30度近くもあり、皆さん流れる汗を拭いながら校内整備に励みました。

                                

<賞>

新井仁之 教授が平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)を受賞しました。
業績題目:視覚と錯視の数学的新理論の研究

小澤登高 准教授が平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。
業績題目:作用素環と離散群の研究
(次号の研究ニュースに掲載予定です。)

小林俊行 教授が2008年度フンボルト賞(数学部門)を受賞しました。
無限次元における対称性の破れの理論、古典的なリーマン幾何学の枠組みを超えた不連続群の理論、複素多様体における可視的作用の理論などを創始して、数学の新しい研究領域を興したことにより受賞しました。
(次号の研究ニュースに掲載予定です。)

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編集後記

8月には各地で局地的な大雨が発生しましたが,たまたま出張の機会が何度かあり,移動できるかまさに天に祈る心境でした.天候デリバティブで統計的にリスク分散できる時代でも,個別のリスク回避は神頼みするしかありません.出張の多い季節ですが,皆様もどうぞご無事で.(吉田)

広報委員会
委員長 吉田 朋広
数理ニュース編集局 鍛冶澤 麻里

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